札幌映画サークルの田口雄三のまったりシネマレビューを公開しています



©2022「すずめの戸締まり」製作委員会
『君の名は。』と『天気の子』。個人的にはどちらも好きな映画ではあるんですが、はっきり苦手と感じていた部分もあって、それが@RADWINPSの歌演出 Aポエミーなモノローグ Bキャラクターデザイン の3つだったんです。@は映画というよりMVを見せられている感が気になるし、Aは単純にこっ恥ずかしい(笑)。Bは主に『君の名は。』に限った話ではあるんですが、頭と目が比較的大きめにデザインされている都合上、どのキャラクターも設定年齢より幼く見えてしまい、シリアスな場面でも “子どもが無理して大人を演じちゃってる感”があったんですよね。これら映画として“余分”と感じる要素が多いため、今一歩物語に入り込めない…これがぼくの中での新海作品の印象でした。
ところが、本作ではそういった苦手ポイントがすべて解消されていたんです。物語をRADの楽曲のノリで強引に押し切ったり、モノローグの多用で過度にセンチメンタルな方向に走ったりしていない。キャラクターデザインもこれまでと比較してやや大人びたものとなっており、特にとある場面においては新海誠作品で初めて“女性の色香”のようなものを感じ取れ、それが終盤の展開に向けて非常に大きな効果を発揮していたと思いました。これらによっ
て映画作品としての精度が大幅に向上し、非常に勢いのある、エネルギッシュな物語を紡ぐことに成功していたと感じます。
もう一つ、どうしても語りたいのが『すずめの戸締まり』というタイトルの出方!これ、個人的に2022年史上最高にカッコよくてキレのあるタイトルの出方だったと思うんですよね。タイトル表示までの一連の場面は映画公開前に地上波やサブスクでも視聴できたみたいなんですが、それらの媒体で事前に確認せずにIMAXの大画面で初体験できて本当に良かった (笑)。多くの方が語るように、ここは監督、脚本のみならず編集までも手掛ける新海誠監督のスキルが存分に発揮された、最高に痺れる名場面だったと思います。
かつての新海作品のファンの中には、商業映画監督としての色が濃くなることを寂しいと感じる向きもあるようですが、個人的にはこの変化を良い意味での“成熟”として捉えたいと思っています。 いまやジブリの後釜と呼ばれるほどのネームバリューを勝ち取った新海監督。本作はその呼び声も納得せざるを得ないほど、純然たる面白さに満ち溢れた傑作エンタメ映画だと思いました。あー、はやくBlu-rayがほしいぞ!(笑)